「第7世代iPad mini(A17 Pro)」は、iPad史上最小クラスでありながら、非常に高性能なタブレットとして待望されていた新型モデルである。もちろん、ぼくは発表後すぐに購入した。
ぼくは他にもいくつかiPadを所有しているが、「iPad mini」の稼働率が圧倒的に高い。前モデルである「iPad mini 6」の発売からすでに3年が経過しており、性能面で時代遅れ感は否めなかった。
時代遅れの性能とはいえ、前モデルの性能に大きな不満はなく、買い換えの必要性を強く感じていたわけではなかったのだが、新モデル発表の喜びのあまり衝動買いしてしまった。
今回のレビューでは、前モデルから進化した点を中心に、新しいiPad miniの魅力について紹介していく。
「第7世代iPad mini A17 Pro」の進化した点
前モデルから大きく変化した点は以下の通りである。
- メモリ容量が「4GB」から「8GB」に倍増
- SoCが「A17 Pro」になり約30%性能向上。GPU性能も約25%向上
- 最低ストレージ容量が「64GB」から「128GB」に倍増。価格は据え置き
メモリ容量が「4GB」から「8GB」に倍増
メモリ容量が「8GB」となり、処理速度の向上が期待できる。年々高性能で高負荷なアプリが増えているため、メモリ容量の増加は非常にありがたい点である。
一般的にメモリ容量が増加するとマルチタスク性能が向上するため、Split Viewで2つのアプリを併用する際のパフォーマンス向上が期待できるだろう。
SoCが「A17 Pro」になり約30%性能向上。GPU性能も約25%向上
SoC(System-on-a-chip:システムオンチップ)は「A15 Bionic」から「A17 Pro」へと2世代分のアップデートが施された。これにより、約30%の性能向上を果たした。
16コアのNeural Engine(ニューラルエンジン)も搭載され、AI処理能力も大幅に向上。Apple Intelligenceにも対応した。
ベンチマーク結果を比較すると、マルチコア性能では最新の「A18」チップやiPad Proの「Apple M」チップに劣るものの、シングルコア性能はM1チップを上回っており、モバイル向けSoCとしては高水準のスペックとなっていると言えるだろう。
実際、3DCADやAdobe系のアプリなど、高い処理性能を必要とするアプリを使用していても、動作にもたつきや遅延を感じたことは一度もなかった。

最安モデルのストレージが「64GB」から「128GB」へ
最低ストレージ容量の増加も嬉しい点である。容量は「128GB」となり、値段も据え置き。お買い得感が増したと言えるだろう。
ぼくは出先で写真の現像を行うことが多く、ローカルにRAWデータを格納するため、ストレージ容量にある程度ゆとりが欲しいという理由で「256GB」モデルを選択した。
タブレットのストレージ容量は非常に悩ましい点の一つであるが、iCloud(アイクラウド)などを活用すれば少ない容量でもやりくりすることは可能である。動画編集やハイエンドなゲームを複数プレイする場合を除いて、「128GB」か「256GB」で事足りるケースが多いだろう。
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「iPad mini A17 Pro」は小型軽量ながら他のモデルに引けを取らない性能を有し、価格も「7万円台」と前モデルから据え置きで、コストパフォーマンスに優れた製品に仕上がっている。

この価格で購入できるデバイスとしては破格の性能と言えるため、高性能で小型のタブレットが欲しい方には非常に魅力的な製品である。
「Apple Pencil Pro」しか使えない点に注意
「iPad mini A17 Pro」では、これまでの「Apple Pencil」は使用できない。本体を旧モデルから買い替える際は「Apple Pencil Pro」を新たに買い直す必要がある。

「Apple Pencil Pro」には「スクイーズ」という、ペンのグリップ部分を強く握ると、アプリに応じて様々なメニューを表示するショートカット機能が搭載されている。(訳注:原文の「スクリブル」は「スクイーズ」の誤りである可能性が高いため修正。スクリブルは手書き文字をテキストに変換する機能)
しかし、画期的な機能ではあるものの、ぼく自身の用途ではほぼ使わず、買い替えの動機としては薄い。新機能にあまり関心がない場合、前と同じような使用感の製品を再度購入するのと大差ないと感じるかもしれない。
ただ文字を書くだけの用途なのに、2万円の出費は痛い。やるせない気持ちになるが、ないと困るのもまた事実である。
高級な万年筆を買ったと思えば安いもの・・・そう自分に言い聞かせることにした。

冗談はさておき、自分と同じような考えの人は少なくないはずだ。できることも大きく変わらないのに、買い直す必要があるのは正直納得しづらい点である。「ちゃんと動く」というスティーブ・ジョブズの哲学は、もう失われてしまったかのようだ、と感じるユーザーもいるかもしれない。
見た目の変化はほとんどなし。新鮮味は薄い
大幅に性能アップしたものの、外観の変化はほとんどない。背面の記載が「iPad」から「iPad mini」に変化している程度の些細な変化しかないため、新製品を買ったという新鮮味はあまり感じられなかった。

デザイン自体に不満はなく、完成されたデザインだと思っているが、見慣れてきたのも事実である。次期モデルでの大幅なモデルチェンジに期待したいところだが、仮に来年いきなり発表されても困るので、できればもう2・3年待ってほしい、というのが個人的な願いだ。
ゼリースクロールは大幅に改善し、体感できないレベルに
前モデルでは「ゼリースクロール」という、画面を書き換えるタイミングが左右で微妙にズレが生じることで、画面が波打って見える現象が一部のユーザーから報告されていた。
「不具合ではないか?」と話題になったが、Appleの公式見解としては仕様の範囲内ということだったようだ。意図的な操作(画面を高速でスクロールするなど)をしない限り気にならない現象で、個人的には全く気にならなかったが、用途によっては致命的で、まともに使えないという意見も見られた。
この問題も今回のモデルで大きく改善されたと言われている。意図的に確認しようとしても、ほぼ知覚できないレベルになっているようだ。
画面のリフレッシュレートは相変わらず「60Hz」のままであり、最新の基準からするとやや物足りない数値かもしれないが、ぼくの用途ではそこまで気にならない。ゼリースクロール現象も改善されたため、以前この現象が理由で購入を控えていた人でも、十分選択肢に入るはずである。
サイズ感は相変わらず最高
「iPad miniの良いところは?」と聞かれたら、真っ先に「手の収まりが良く、邪魔にならない絶妙なサイズ感」と答えるだろう。
「iPad mini」は、現行モデルで唯一片手持ちがしやすいiPadであり、他のiPadより少し縦長で、タブレットとスマートフォンの特徴を併せ持つようなサイズ感が特徴である。そのため、「自宅でじっくり使い込む」というよりは、「出先でサクッと」という使い方に適したモデルと言える。
手軽さからくる稼働頻度の高さこそがiPad miniの真骨頂である。他のiPadだと使うのがためらわれるようなシーン、例えば、電車内や会社の休憩時間、カフェの小さなテーブルなどでも、スマートフォンの代わりに使うことができる。
使う場所やタイミングに気を使う必要なく、スマートフォン以上の作業領域を確保できる。小さなポーチやジャケットのポケットにも収まるため、携行しやすいのもメリットだ。
iPadなどのタブレット端末を使ったことがない方には、通常サイズのiPadやiPad Airが推奨されることが多い。しかし、iPadの便利さを理解していて「もう少し小さければ・・・」と一度でも感じたことがある方は、iPad miniの良さをすぐに理解できるだろう。
結論
新型モデルの性能面を中心に、最後にiPad miniの普遍的な魅力についても紹介してきた。
結局「本機は買いなのか?」という疑問について、ぼく個人の見解をまとめると以下の通りとなる。
- 本格的なアウトプット作業よりも、下書きやインプット作業で利用したい
- スマートフォンでは扱いきれない高性能なアプリに触れてみたい
- 移動時間中やカフェなどの隙間時間を有効活用したい
- 前モデルを使っていてスペック不足を感じている
- ゼリースクロール現象に不満を感じていた
上記に当てはまるユーザーは、今すぐにでも購入、または買い替えを検討する価値があるだろう。タブレット端末とは思えないほどの身軽さと性能のギャップに、すぐ虜になるはずだ。
旧モデルの性能に満足していない場合でも、新型への買い替えは推奨できる。Apple Pencilの買い替えが必要なのは気になる点だが、ヘビーユーザーであれば、その価値を理解できるだろう。
逆に、以下の項目が気になる場合、基本的に買い替えは慎重に検討した方が良いかもしれない。
- 全ての作業をこれ一台で完結させたいユーザー
- 大画面でのびのびと作業したいユーザー
- 画面のリフレッシュレートの低さが気になるユーザー
画面サイズの小ささは個人的には大きな利点だと感じているが、用途によっては短所となり得る。例えば、Split Viewで2つのアプリを同時に利用することが中心ならば、作業領域が狭く、正直快適とは言えないだろう。その場合、13インチのiPad ProまたはiPad Airが適している。

そうでなくとも、大画面でのびのび作業したいユーザーにも、iPad miniは最適な選択とは言えない。例えば、イラストレーターが液晶タブレットとしての運用を考えている場合、やはり画面の小ささが気になるだろう。
生粋のゲーマーであれば、リフレッシュレートが「60Hz」である時点で選択肢から外れるかもしれない。そのようなユーザーは、ProMotionテクノロジーに対応した上位モデルの購入を検討するべきである。
このように、「iPad mini」は得意不得意、長所と短所がはっきりとした、ある意味でピーキーな端末と言える。合う合わないが用途によって明確に分かれるため、一般的なタブレットのようなオールマイティな使い勝手を想像していると後悔する可能性もある。
今回のレビューを参考に、ご自身の用途を今一度整理してみてほしい。自分の要件に合致した時、iPad miniは最高の相棒になってくれるはずである。