【レビュー】SONYが仕掛けるゼロ遅延体験。「INZONE Buds」(WF-G700N)がゲーム体験を一変させる最高のゲーミングイヤホンだった。

「INZONE Buds」は、SONYのゲーミングブランド「INZONE」から発売された完全ワイヤレスヘッドセット。「左右分離式の完全ワイヤレス」「30ms以下の低遅延」「連続12時間動作」「eスポーツ特化の高性能」が特徴の製品。
キーボードやマウスの無線接続が主流となりつつある現在、ゲームで最も遅延にシビアである「イヤホン」にもようやく無線化の波が訪れた。

鳴物入りで登場した「INZONE Buds」だが、果たしてe-Sports用途に耐える性能をしているのか。今回のレビューでは「INZONE Buds」のファーストインプレッションから、実際に半年使用して感じたメリット・デメリットを紹介する。

「INZONE Buds」のメリット

  • 体感できる遅延ゼロ。e-Sportsにも最適
  • 安定した接続性で音声トラブルはわずか
  • ゲームに最適化された音質と優秀な立体音響
  • ロングライフバッテリー搭載で充電要らず
  • SteamDeckとの相性抜群
  • ノイズキャンセリング搭載で生活音をシャットアウト

「INZONE Buds」のデメリット

  • 実質ドングル接続のみなので、あくまでPC向け
  • 「防水・防塵」非搭載で屋外利用は気を遣う
  • マイクは実用的だが音質は必要最低限

体感できる遅延ゼロ。e-Sportsにも最適

ゲーミングイヤホンに求められるスペックは多岐に渡るが、特に「音の遅延の有無」は特に重要なポイント。「INZOBE Buds」のカタログスペックを見てみると、遅延は「30ms」と低遅延。
一般的なBluetooth接続のワイヤレスイヤホンと比べるとかなり低遅延だが、他社製のゲーミングイヤホンと比べても遅延は少ない部類となっている。

  • Razer「Hammerhead Pro HyperSpeed」:40ms
  • Logicool「G Fits」:不明。※上記製品と同程度とのレビューあり。
  • Edifier「GX05」:15ms

念のため使用している周辺機器も挙げておく。使用している周辺機器の性能にも大きく影響されるが、私の環境はゲーミンググレードのデバイスで固められているため遅延は最低限に抑えられているはずだ。

  • キーボード:Drunkdeer G65
  • モニター:MSI Optix MAG274QRF-QD(165Hz,1440p)
  • マウス:Sprime PM1
  • GPU:GTX 3070

では、体感できる遅延がどの程度なのか。Twitchが提供している遅延計測ツール「Twitch Audio Video Sync」を使用し、音声と映像のズレを計測してみる。

結果を確認すると、約〜20ms程度の遅延が発生しており、ほぼ公称値通りの結果となった。
他にも遅延にシビアな「VALORANT」でも、スキルや足音、銃声などのゲーム音もしっかりリアルタイムに鳴ってくれる。ゲームに影響するような遅延は存在しないと言っていい。

参考までに、筆者のテスト環境は下記の通り。入力遅延や応答遅延の少ないゲーミンググレードのデバイスで固められているため、かなり遅延にシビアな環境となっている。
「INZONE Buds」の遅延は一般人レベルでは体感するのが難しいほど微々たるもので、ゲームに影響しないということがわかった。カタログスペックの通り、e-Sportsにも耐えうる性能を有していることが分かった。

安定した無線接続で音声トラブルほぼなし

無線接続となると気になるのが「接続の安定性」。音楽鑑賞なら音が途切れても不快なだけだが、ゲーム用途だとパフォーマンスに大きく影響するため、致命的な問題となる。
専用のドングルを用いた2.4GHz接続をメインに2ヶ月ほど使用したが、その間遭遇したトラブルは計2回。現象は以下の通りだ。

  1. 左側ユニットのみPCとの接続が切れる。数秒後に自動で再接続する
  2. Discordの相手の音声に機械的なノイズが乗る(音割れ?)

1件目が発生したのは初回利用時。イヤホンをPCと接続した後、数分後に左側イヤホンから音声が聞こえなくなり、接続が数秒間途切れてしまった。少し待つと自動で再接続されたが、初回利用ということもあり、初期不良かと思い肝を冷やした。

もう一つは、Discordの相手の音声が割れ、高音のノイズが発生する不具合。
「Apex Legends」のプレイ中にDiscordの通話に参加したところ発生。後日、同じ状況を再現したが、同じ問題は発生しなかった。

一応解決方法もある。Apexのゲーム内設定から、音声の出力デバイスを「自動で認識」から「INZONE Buds」に手動で変更することで解決した。この問題自体おま環の可能性も高いが、同症状に悩んでいる方は参考にしてほしい。

ただ、いずれの問題もこれ以降一度も発生していないので、現在はファームウェアの更新などで改善されている可能性もある。ここは大手メーカー製品の特権とも言えるだろう。

このように、無線接続ならではのトラブルはいくつか発生したものの、基本的には接続は安定しており、致命的な問題は今の所発生していない。これが多いか少ないかは感じ方は人それぞれだが、無線の利便性とトレードオフだと考える。

接続の安定性も高く、部屋を歩き回ったり、トイレ休憩時でも取り外すことなく行動できるのは便利。多少のトラブルはあるものの、もう有線には戻れない。

ゲームに最適化された音質と優秀な立体音響

e-Sports向けイヤホンには、ゲーム内の銃声や足音を聞き分けられる指向性、音との距離感、様々な音を聞き分けるための解像度の高さなど、リスニング向けイヤホンとは大きく異なる性能・機能が求められる。

「INZONE Buds」は、ゲーム専用に作られているだけあって、高音質と定位の良さを兼ね備えており、様々な音をクリアかつ正確にプレイヤーに伝えてくれる。

音の解像度は、普段愛用している「AirPods Pro(第1世代)」と同じかそれ以上。出音はフラットで聴きやすいが、「AirPods Pro」ほどの温かみはない。

出音は低域が控えめで、中音域〜高音域がブーストされている印象。フラットな音ではないが、FPSで重要な敵の足音や銃声などが聞き取りやすい調整となっている。ゲーミングイヤホンとして現状最高レベルの音質であることは間違いない。

音特性もイコライザで細かく調整できるので、音楽や動画にも最適だ。

一般的なステレオ音声でも十分素晴らしい出来だが、SONY独自の立体音響技術である「360 Spatial Sound for Gaming」を利用することで、より音の定位感を向上させることができる。

ステレオのゲーム音を7.1chのサラウンドにリアルタイムに変換してくれる。音の臨場感が向上し、敵の足音や銃声など指向性をより正確に聞き取るのに役立つ。

動画視聴や音楽鑑賞時に本機能をONにしていても音が不自然にならないのも嬉しいポイント。

ロングライフバッテリー搭載で充電要らず

ゲーム中にイヤホンのバッテリーが切れる最悪の事態はどうしても避けたいところ。

「INZONE Buds」のバッテリー持続時間は「12時間」とワイヤレスイヤホンの中でも最長クラス。競合と比べても頭ひとつ抜けている。

ケースと合わせて合計24時間使用できるので、毎日充電する必要もなく、1日数時間のゲームであれば、充電の頻度も低く数日間は安心して使い続けることができる。

自分の使い方だと使用中にバッテリーが切れることはなく、1日の終わりにケースで充電するだけで1週間は充電を気にせず使える。充電のストレスが少ない分、使い勝手がいい。

「バッテリー持続時間が長い分本体が重いのでは?」と思うかもしれないが、片側gと超軽量。軽く疲れにくいボディと驚異的なバッテリー持続時間の組み合わせにより、長時間のゲームに最適。MMOなどの長時間プレイやゲーム配信にも適している。

PC特化(ドングル接続前提の性能)である点に注意

「INZONE Buds」はドングルを用いた「2.4GHz接続」と「Bluetooth接続」の2種類の接続方法に対応している。

ただし、本製品のアドバンテージである「低遅延・多機能」を活かすには、ドングルを用いた「2.4GHz接続」が必須な点には注意。

Bluetooth接続の注意点はもう一つある。「INZONE Buds」は一般的な接続規格である「Classic Bluetooth」に非対応で、最新規格である「LE Audio」にのみ対応している。そのため、多くのAndroidスマホや、iPhoneでBluetooth接続を利用することはできない。

ドングル接続であればスマホでも利用できるが、一般的なワイヤレスイヤホンに比べ使い勝手は悪い。コーデックの後天的なサポートにより、将来的に対応する可能性もあるが、「LE Audio」という規格が普及するかは未だ不明。

いずれにせよ、Bluetooth接続の場合「INZONE Buds」のスペックを最大限に活かすのは難しい。あくまでPC専用と割り切って購入することをオススメする。

ノイズキャンセリング搭載で生活音をシャットアウト

「INZONE Buds」にはこれまでSONYが培ってきた高性能なノイズキャンセリング機能も搭載。その性能はSONYのフラッグシップモデルである「1000Xシリーズ」と同等とされ、室内利用ではオーバースペックと言えるほど。

室内利用においても実用性はかなり高い。僕の部屋では常時エアコンと加湿器が動作しており、そこそこの音が常に鳴っているが、装着すると全く聞こえない。

ゲームへの没入感を損ねる生活音を完全にシャットアウトし、ゲームへの集中力を最大限まで高めてくれる。

ただ1点気になるのが無音時に僅かにホワイトノイズが聞こえること。

ノイズキャンセリング搭載イヤホンの中でも比較的大きめで、静かな環境で何も再生せず着けていると、「サー」というノイズが微かに聴こえる。ゲーム中は全く気にならないが、耳栓代わりにしたい人にはデメリットといえるだろう。

防水性能は「IPX4」と低め。屋外利用は気を遣う

「INZONE Buds」は最近のワイヤレスイヤホンにしては珍しく、防水性能が「IPX4」と低め。普段使いなら大丈夫なレベルだが、防塵の等級は非取得であるため、屋外での利用には気を遣う。

ノイズキャンセリング性能も高く、電車や人混みでも大活躍しそうなだけに残念。デスクや室内でのゲームに最適化されたイヤホンなので致し方ないが、価格帯から考えると少し残念に思える。

SteamDeckとの相性抜群

少々ニッチな用途だが、「SteamDeck」との相性が抜群なので紹介したい。
「SteamDeck」はその携行性の高さから屋外で利用する機会も多い。電車や飛行機での移動中にプレイしていると環境音が気になることも多かった。一般的なイヤホンだとゲーム音が聞き取りづらく、ワイヤレスイヤホンでも遅延によって快適にプレイできない。


「INZONE Buds」は「SteamDeck」にももちろん対応。ドングルを挿すだけで利用でき、出先でも快適にゲームが楽しめる。ドングルも小型なので、本体に付けてもほとんど目立たない。ドングルのカラーは「INZONE Buds」の色にかかわらずブラックなので、「SteamDeck」との馴染みも良い。

マイクは実用的だが音質は必要最低限

マイクの仕様は詳細不明だが、品質は思ったほど悪くない。普段使用しているAIF「MOTU M2」とマイク「RODE Pod Mic」の組み合わせとは比べるべくもないが、「INZONE Buds」でもゲーム内のコミュニケーションには充分な性能だ。

まとめ

高性能なノイズキャンセリングは、ゲームへの集中力をより高める。取り回しやすい無線接続ながら、ロングライフバッテリーでバッテリー残量を意識せず利用できる。

発売から半年ほど経った今でも換えの効かない製品で、その性能は唯一無二。使用者を選ぶイヤホンには違いないが、ゲームに本気なPCゲーマーには是非オススメしたい製品だ。